唐津の民話  

 

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「かんねばなし4」  
「甘酒」

 今日は、勘右衛(かんね)どんの、甘酒の話ばしゅうだい
 かんねは貧乏でしたが、お母さんの3年忌には龍源寺の和尚さまに頼んで、世間並みの法事をしました。しかし、一番来てもらいたかった牟田部(むたべ)の伯母さんが、どうしたわけか来てくれませんでした。
 「なぜ来てくれなかったろうか。目が悪いと言うていたが、ひどく悪くなっているのじゃなかろうか」と心配になりました。そこで、法事の供養物を持って牟田部の伯母さんの家まで行ってみることにしました。
 伯母さんの家に行ってみますと、幸い元気でおります。
 「本当にすまぬことをした。ぜひ法事には行くつもりでいたが、目が悪くて行けなかった。今日はわざわざ供養物まで届けてもらって有難う。お前は本当に優しかなぁ」と、伯母さんは涙を流して喜んでくれました。そして、
 「暑い時に良く来てくれた。幸いお前の好きな甘酒を造っとるよ。それでも飲んで行かんけ」と、かんねに甘酒をすすめてくれます。
 かんねは酒も飲みますが、甘酒も好きです。甘酒と聞きますと身体を乗り出して
 「ほう、甘酒のあるとですか。甘酒は俺が一番好きなもんですたい」
 「そうそう、お前は子供の時から甘酒を好いていたね。お前のお母さんも甘酒造りは上手だった。私のもよく出来ているよ」
 甘酒の話となると、二人はのどを鳴らしながら、話は尽きません。
 そのうち伯母さんは、甘酒を温めて、大きな茶碗で甘酒を出しました。その甘酒を一口飲んでみますと、そのうまさといったら、ほほが落ちるほどうまいものでした。
十人町にある龍源寺
 そこでかんねは、息もつかずに茶碗一杯を一息に飲んでしまいました。その間伯母さんは、かんねがうまそうに飲む姿をじいっと見つめておりましたが、飲み終えて一息入れるかんねに
 「もう一杯どうか?」と、更に甘酒をすすめます。かんねは喜んで
 「こぎゃんうまかつは、初めてよ。本当に伯母さんは甘酒の名人ばい」と、伯母さんをほめながら、また一杯注文します。
 「そうほめられると嬉しいよ。いくらでもあるから飲みなさいよ」
 「まだあるとけ。それならもう一杯」と、かんねは甘酒を注文します。すると、伯母さんは喜んで
 「そうかい、そうかい、いくらでもあるから、腹のはち切れるまで飲みなさいよ」と、すすめます。ですから、かんねは、遠慮はせず、二杯、三杯と立て続けに飲みました。
 「まだあるよ。もう一杯どうね」と、伯母さんは甘酒をすすめますが、いくらかんねの腹が大きいとは言え、そう沢山は飲めません。
 「もう腹一杯になった。もう飲めませんばい。しかし、どうしてこう沢山造っとるとね」と、尋ねました。すると伯母さんは
 「そうそう、この前お前が法事の案内に来たろうが。その時白飯を炊いたが、お前は食べずに帰ってしもうた。もったいないから、それで甘酒を造っておいたのよ」と、話をしました。この話を聞いたかんねは、この前の鼻水入りの白飯のことを思い出し、急に胸糞が悪くなりました。
 「そんなら、あの時の白飯がこの甘酒になったとや。本当ね」
 「何をお前にうそを言うもんね」と、伯母さんは言います。この返事にかんねは、今にも吐き出しそうになりました。
 しかし、伯母さんは、かんねが自分の造った甘酒を喜んで飲んでくれたと思っております。その目の前で吐き出すわけにもいきません。
 「伯母さん甘酒有難う。俺はもう帰るよ」と言って立ち上がりました。伯母さんは、今まで機嫌よくしていたかんねが、急に不機嫌になったので心配して
 「もう帰るのかい。もっとゆっくり遊んで行けばよかとに」と引き止めました。しかしかんねは、その言葉を半分も聞かずに、伯母さんの家を飛び出しました。
       この話にはまだ続きがありますが、今日は、ここまで…。
                           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2002.2.4  

 

 

  

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