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「かんねばなし5」
「味噌づけ」
今日は、勘右衛(かんね)どんの、味噌漬の話ばしゅうだい
かんねは、伯母さんから鼻水入りの甘酒を飲ませられて、気分が悪くて伯母さんの家を飛び出しました。鹿の口(かのくち)という所に来た時、あまりあと口が悪いので吐き出そうとしましたが、どうした訳か吐き出すことができません。
胸はムカムカするし、口直しでもしたらよかろうと、何か食べ物はないか、辺りをキョロキョロ捜しましたが、何も見つかりません。
それなら水でも飲んだらと思い、道端の溝の水を飲もうと腰をかがめますと、すぐ目の前に茄子の味噌漬がありました。
「こりゃァ、よかもんがあったばい」と、その味噌漬を一口食べました。
その味噌漬は色といい、味といい、3年ぐらい漬けていたものでないと出来ぬほど上等のものでした。かんねは「うまか、うまか」と言いながら、その味噌漬をむさぼるように食べました。
「これで口直しができた」と、やっと胸をなでおろしながら歩き出しました。
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現在の鹿の口付近 |
しばらく行きますと、前の方から盲さんが、何か探し物をしているような格好をしながらやって来るのに出会いました。そこで、いつもでしゃばる癖のあるかんねは、盲さんに向かって
「お前は何ば捜しとるケ。何ば落したとや?」と聞きました。すると盲さんは頭を上げて
「恥ずかしくて人には言われんことだが、わしは痔が悪くて、痔に効くというので味噌漬を股の間に挟んでおります。それが、この先で犬に吠えられてびっくりした拍子に落してしもうた。それで捜しとりますたい。そこのあたりに、その味噌漬が落ちていませんでしたか?」と、尋ねます。
この話を聞いたかんねは、さっき口直しに食べた味噌漬が、盲さんの股に挟まれていた味噌漬だと知り、またまた気分が悪くなりました。
「ええぃくそ!!、鼻水入りの甘酒の次は股に挟んだ味噌漬。今日はついとらんばい」と、ぶつぶつ独り言を言いましたが、誰のせいにするわけにもいかず、盲さんには
「俺は、そぎゃんたぁ知らんばい」とそっけなく言って、その場を走り抜けました。
今日は、ここまで…。
(富岡行昌 著 「かんねばなし」より)
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