唐津の民話  

 
 
 『かんねばなし14』  
“かんねの金玉”

 今日は、勘右衛(かんね)どんの、金玉の話ば、しゅうだい
 貧乏で貧乏で、満足に三度の食事も摂れないかんねは、人に自慢できるものは何一つありませんでした。
 しかし、男の宝物の金玉だけは、誰と比べても負けない大きなものを持っておりました。だけど、金玉が大きいということは、時には邪魔になるもので、言うならば、股の間に大きなヒョウタンを下げて歩くようなものなので、歩くときは不自由なものでした。
 夏の真っ盛りというのに、やむを得ぬ用事のために、かんねはその大きな金玉を下げて和多田(わただ)に行きました。その出会い頭に、和多田の甚作が子牛を引いてくるのに会いました。
現在の和多田本村
 この甚作も、かんねと同様にほら吹きの癖があり、時々かんねを負かしてやろうと考えていました。一方かんねも、そのことは十分承知しておりました。
 お互いに相手を負かしてやろうと考えていたときの出会いです。かんねは早速、甚作をひやかしてやろうと思いました。
  「こりゃ珍しか所で会うたな。甚作、お前は犬を連れてどこに行くとけ」と、声をかけました。このかんねの言い方に腹を立てた甚作は
「なんちゅうことを言うか。この子牛が犬に見えるのか。お前の目は節穴か」と、食ってかかりました。するとかんねはニヤリと笑って
  「ほう、これは子牛か。それにしてはあんまり小さいから犬と間違った。どうも、どうも」
「間違うにもほどがある」と、甚作はますます顔を真っ赤にして怒り出しました。
 甚作はかんねが、わざとひやかして怒らせようとしていることに気付いていないのです。それでかんねは、ますます面白くなって
「そう怒るなよ。その子牛なら誰が見ても犬と思うよ。俺の金玉より小さかもんな」と、ひやかします。
 頭に血の気が上って、カッカッなった甚作は
「なに!お前の金玉より小さい?そんな馬鹿な話のあるもんか」と、今にもかんねに掴みかかろうとしました。かんねは、甚作を怒らせるのが目当てですから、さらにひやかします。
「そんなら比べてみようか。二人でどっちが大きいかと言い争っても勝負はつかん。お前の子牛と俺が、先石(さきいし)のあたりまで歩いて行こう。その時出会った者が『太か』と、言うたほうが勝ちと決めよう。俺が負けたら金玉をお前にやるよ。俺が勝ったら、その子牛を貰うことにしよう」と言います。甚作はこの勝負は絶対に勝つと思っておりますので
「よかろう。約束はお互い守るよ。しかし、かんね、お前が負けるに決まっとる。負けて泣きついても俺は知らんぞ」と、話は決まりました。
現在の和多田先石
 甚作は子牛を引き、かんねはフンドシをはずして、金玉丸出しで先石へと歩き始めました。このおかしな連れを、早速子供達が見つけて集まって来ます。
「かんねさんの金玉の太さ!!」
「かんねさんの大きな金玉」と、口々に言いながらついて来ます。
 甚作はそのうち、子牛の方が大きいと言う者が出て来るだろうと思っておりますが、子供は誰一人として子牛の方が大きいと言う者はおらず、反対に
「この子牛は可愛いか」と言うばかりでした。そこでかんねは
「ほれ見ろ。俺の方が勝だ」と名乗りをあげ、約束どおり子牛を貰いました。
         今日の話は、ここまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2002.11.22  

 

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