唐津の民話  

 
 
 『かんねばなし13』  
“魚の名前”

 今日は、勘右衛(かんね)どんが、魚の名前ば、知ったふりして、失敗さした話ば、しゅうだい
 かんねが魚屋町の魚屋の前に差し掛かったら、大勢の人が集まって、ガヤガヤ騒いでいました。かんねがその人達をかき分けて中に割り込んでみますと、目の下1尺(約30cm)ほどの大きな魚が置いてありました。
「何をしとるかい?」と尋ねてみますと、
「この魚ば見てみんな。この魚は初めて見る魚で、誰も名前ば知らんとよ。かんね、お前は物知りという評判だが、何という魚かね」 かんねも初めて見る魚でした。名前を知るはずがありません。
 その魚は、アラカブに似てゴツゴツしており、胴の方はススキに似てすらっとしているし、ヒレは大きくて荒いトゲがついて、見るだけでも気味の悪い魚でした。 

 かんねは、物知りと言われてみれば、見たこともないと言うわけにもいかず、口から出まかせに
「この魚は、ここの近くじゃ滅多に獲れんしろもので、南の琉球あたりでよく獲れる。琉球あたりじゃイワシやサバと同様に、沢山獲れる魚ばい。この魚の名は『ニセグッチョ』と言いますばい。煮付けにしたらうまか魚たい」と知ったふりしてしゃべりました。このかんねの説明を聞いた人達は
「うん、さすがはかんねばい。物知りたい」と感心しました。

 その翌日、かんねは材木町の金持ちの木屋の新築祝いに招かれて行きました。木屋と言えば当時は唐津一番の金持ちでしたから、お祝いのご馳走も山のように出てきました。その中で目についたのは、大きな魚の煮付けでした。
「この魚は珍しく、うまかですな。何と言う魚ですかい」と、かんねはお世辞に旦那さまに尋ねました。すると旦那さまは
「この魚の名前を知らんのかい。昨日、魚屋町でお前が名前を教えていた、あの魚がこれよ」と、けげんそうに言います。かんねは
現在の材木町
「こりゃしまった。つまらんことを聞いてしまった」と思いましたが、昨日は口から出まかせにしゃべったものですから、その時何と言ったか、魚の名前を思い出せませんでした。しかし、あの時は出まかせに言ったとも言えず
「あの魚でしたか、煮付けると姿も変わるもんですな。すっかり見違ってしもぅた。この魚は『グッグッタイ』でしたな」と、また口を滑らしてしまいました。すると旦那さまは
「かんね、お前は昨日はニセグッチョと言うたじゃなかか。それをグッグッタイとは、ちょっとおかしな話じゃなァ」と、咎めました。こう旦那さまに言われると
「こりゃ大失敗じゃ、旦那さまに嘘ば言うたことになり、あとできっと立腹されるに違いなか。何とかしてこの場を取りつくろわにゃァ」と思い
「魚の名前というものは、次々と変わるもんですばい。旦那さま、生きとるうちはイカですが、乾し上げるとスルメと言います。この魚も生きているうちはニセグッチョばってん、煮たらグッグッタイと言うても間違っておりません」と冷や汗をかきながら言い訳をしました。するとさすがは太っ腹の旦那さまです
「ふふん、そういうもんかい」と、それ以上は追求されませんでした。
         今日の話は、ここまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2002.10.29  

 

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