唐津の民話  
 

 

 
 『かんねばなし45』  
“隠れ蓑と隠れ笠”その2

今日は、勘右衛(かんね)どんが、隠れ蓑で失敗さした話ば、しゅうだい。

 勘右衛は天狗を騙して取った隠れ蓑と隠れ笠ば着て、町田村(ちょうだむら)に通りかかりました。
 田んぼの中ほどで、前の方から町田村の八作がやって来ました。
 この八作は勘右衛とはとても仲が悪く、いつも勘右衛の悪口ば言うとりました。
現在の 唐津市町田付近
 そこで勘右衛も、いつか機会があったら八作ばこらしめてやろうと思うとりました。
 そこで勘右衛は八作と出会い頭に、八作の頭ば思いっ切り叩きました。
「痛っ!誰か、俺ん頭ば叩いた奴は」
と、叫んであたりば見回しましたが、誰もおりません。びっくりしてその場に気絶してしまいました。
 勘右衛は面白くなってきました。
「これば着とけば、誰にも俺の姿は見えん。
こりゃ面白うなったぞ」

 そこで怠け者の勘右衛は、働かんで食える方法ば思いつきました。
 勘右衛はひもじくなると隠れ蓑と隠れ笠ば身につけて、よその家に入り込んでは勝手に飯ば食べるのでした。
 そんな悪さばしても、誰も勘右衛の姿ば見つけた者はおりません。隠れ蓑と隠れ笠のためです。

 それからは、このおかしな出来事は近所に次々と起こりました。
「鯛の刺身ば買うとったとこれ、ちょっとん間にのうなっとる」
「うちでは、いつの間にか酒んからっぽになっとった」
 勘右衛の仕業とは知らぬ人々は、わざわざ勘右衛の処に来て
「お前も泥棒にあわんごて、用心したがよかぞ」
と、忠告してくれる者さえありました。
 調子にのった勘右衛は、横着にも、お祝い事んあると聞くと必ず出かけて行き、ご馳走ば腹いっぱい食っておりました。

 大石村の庄屋さまの家で祝儀がありました。庄屋さまは金持ですから、祝儀も盛大です。
 目の下二尺もある大きな鯛が、美しか有田焼という大皿に盛り付けてあって、山んごたるご馳走が数え切れんほど沢山に出してありました。
 酒も、大きな樽がずらーっと並べてあります。
 勘右衛は招かれてはおりませんでしたばってん、隠れ蓑と隠れ笠ば着て、庄屋さまのお祝いの座敷に上がり込みました。
 まだ祝儀は始まっとりませんので、誰も座敷にはおりません。
 勘右衛は勝手に一番うまそうな料理ば選んで次々と食べ、酒も大酒盃でぐいぐいと飲みました。
 酒には強か勘右衛ばってん、あんまり飲み過ぎて、ついに酔っ払って座敷の隅に寝込んでしまいました。

現在の唐津市大石町付近
 そのうちにお客が座敷に入ってきました。お客は勘右衛が眠り込んでいるのは見えませんので、座敷に入るたびに勘右衛を踏み付けます。
 そいでも、勘右衛は酔っ払っとりますけん、ぜんぜん目ば覚ましません。
 そのうちに、踏まれるたびに蓑と笠は破れ、その破れ目から勘右衛ん姿が見え始めました。
 そん姿ば見つけたお客は
「こりゃ、裏町ん勘右衛ぞ。ご馳走ん、のうなると思うとったら、こ奴が食うとったつぞ」
「そうだ!そうだ! こぎゃん悪か奴は勘右衛の他にはおらん」
 お客は腹ば立て、勘右衛ばさんざん痛めつけました。勘右衛は
「こりゃ、しもた。大変なこつになった。大失敗」
と、思いましたが、身から出た錆というもんで、痛い思いをして逃げ帰りました。

         今日ん話しゃ、こいまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2005.09.08

 

 

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