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唐津の民話  
 

 

 
 『かんねばなし36』  
“狐の失敗”

 今日は、勘右衛(かんね)どんの、狐ば騙さした話ば、しゅうだい。
 神田(こうだ)村の境の山田峠には古い狐がいて、時々人間を騙しておりました。
 
現在の“唐津市神田”
勘右衛は山田村の親戚の忠助が、土曳き(材木を山から引き出すこと)に行って、右足を折って難儀していると聞いて見舞いに出かけました。
「とんだ災難でしたなァ。足の具合はどうかね」
と、勘右衛にしては、やさしい言葉をかけました。
「それが、骨にひびが入っとるようで、時々痛む。だいぶんようなったばってん、歩くとにゃまだ難儀しとる」
「そりゃ いかんな。そんなら骨接ぎさんに見せたがよか。歩けんなら俺が背負ってやろうか」
「そうしてくれるなら有難か」
と、忠助が頼みますので、勘右衛は忠助を背負って唐津の骨接ぎさんに連れて行きました。
 こうして二人が山田峠を通ったのを見た山田の狐は
「勘右衛には勝てんが、こりゃよかことば思いついた。忠助に化けて勘右衛ば騙してやろう」
と、思いました。

現在の“山田峠”
 二三日すると、忠助は一人で杖をついて骨接ぎさんに通えるようになり、これを見ていた狐は
「あ、はぁ、あの姿に化けたらよか」
と、化け方を研究し、勘右衛と出会う時を待っておりました。
 すると、狐にとっては運良く勘右衛が峠を登って来ました。
「これはよか機会じゃ、勘右衛ば騙してやれ」
と、顔を二三回尻尾の先でなでると、見る見るうちに忠助に化けました。
そして木の枝を折って、忠助の真似をして杖をついて、勘右衛の処にやって来ました。
「こりゃ よか処で出会うた。勘右衛まことに済まんが、疲れてしもうた。俺を背負ってくれんか」
と、狐の忠助が頼みました。すると勘右衛はちょっと考えたようでしたが、
「まだ杖ついとるな。よかろう俺ん背中に乗らんね」
と、やさしく言って忠助を背負いました。狐の方は、勘右衛を見事に騙したと思って、いい気分で背負われておりました。
現在の“唐津市山田”

 しばらく歩いたころ、勘右衛は肩につかまっている忠助の手を急に捕らえ、大きな声で狐の忠助を叱りつけました。
「このうすのろ化け狐め、お前は良く化けとると思うとろうばってん、忠助どんの足ゃ右足が悪かったぞ。お前のは左足の方じゃ。この馬鹿狐めが」
と言って、狐が気絶するまで叩きました。狐はさんざん痛めつけられて、山に逃げ帰りました。
 狐は、忠助を前から見て、右と左を間違えて化けたので、勘右衛に見破られたわけで、いくら化け方上手な狐といっても、知恵の無か話ですたい。

         今日ん話ゃ、ここまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2004.11.18

 

 

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