唐津の民話
. 「かんねばなし9」
今日は、勘右衛(かんね)の家の話ば、しゅうだい 「何か用か、俺達はお前に話すことはなか」と、その場を逃げ出そうとしました。しかし、それで逃げられてはかんねの名がすたります。そこはあつかましさでは評判のかんねです。 「そう心配せんでもよか。お前たちはご馳走を食ってご機嫌じゃろうが、自分の家に帰ればおんボロの家に寝とるじゃろう。可哀そうなもんなぁ」と、ひやかしました。この言葉を聞いた若者たちは腹を立てて 「どんな家に住もうと俺たちの勝手たい。自慢そうに言うお前も、どうせ雨漏りの家に住んどろうが」と、反対に言い返しました。するとかんねはニヤリと笑い 「そう思うだろう。こういう格好をしとるから、そう思うのも無理はなか。しかし、お諏訪さまの社(やしろ)とまではいかんが、家は立派なもんたい。屋根は『ごまン瓦』。しかも、ところどころ『ひよン皮』でふいとる」と、言いました。その話を聞いた若者たちはビックリして 「そりゃ、本当かね?」と、聞き返します。 「そうだ、裏の畑には『18里ン山芋』もあるし、裏の田は『3どまき』ときと 「それになぁ、10里(40km)もあるカズラがはっとる」と、またまた大きなことを言います。若者たちはますます感心して 「本当ならすばらしい見物だ、見に行こうや」と、かんねと連れになって唐津に引き返しました。
唐津の裏町に着きましたが、お諏訪さまのような立派な家は見当たりませんし、家が建て込んでいるので、かんねが自慢したような広い庭のある屋敷もありません。かんねは裏町で一番小さく、倒れかかった家の前で立ち止まり 「裏の畑に植えている山芋のことよ。くりくり曲がっているから二九の十八里になる」と、かんねの屁理屈にまたまた参りました。 「それなら、10里のカズラはどれね」 「ほうら、そこにゴリが2つ成っておろうが。合わせて10里」 「そんなら、3斗蒔の田と言うたらどこにある?」 「この田を見てみろ。一度蒔いても芽が出ん。二度目に蒔いたら枯れてしまった。三度目に蒔いてやっと芽が出て、このくらい大きくなった。土地が悪いから、よう育たん。だからこの田は三度蒔きの田たい」 このように、次から次に言われると二の口は継げず、ブリブリ腹を立てながら、若者は2里の道を引き返して行きました。 今日の話は、ここまで…。 (富岡行昌 著 「かんねばなし」より) |