唐津の民話  

 
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「かんねばなし8」  
「竹の子」

 今日は、勘右衛(かんね)どんが、神主さまに負けらした話ば、しゅうだい
 かんねの西隣に神主さまが住んでおりました。かんねもずるがしこかったのですが、神主さまもずるがしこさでは負けませんでした。
 かんねの家の裏には孟宗竹の藪がありました。春になると竹の子が生えますから楽しみにしていました。雨が降った後は竹の子はよく生えてきます。かんねが隣を覗いて見ますと、竹の子が塀をくぐって神主さまの庭に生えています。
「ありゃ家の竹の子ばい。黙っていると神主の奴はずるいから、きっと盗み取るに違いない。何とかしなきゃ」と思って神主さまの所に行って
「神主さま。変なことを言うようですが、家の竹の子がお宅の庭に入り込んでしまいました。誠に済みませんが掘らして下さい」と頼みました。すると神主さまは
「そうなぁ、竹の子はお前の家のものじゃろう。しかし、お前のように力の強い者が掘ると庭が荒れてしまう。だから俺が掘っておくよ」と言いました。  かんねは、竹の子を神主さまが掘ってくれるならと、待っておりましたが、いつになっても持って来てくれません。待ちくたびれて神主さまの所に行ってみますと、もう竹の子はなくなっております。
「ここにあった竹の子はどうなりましたか?」と尋ねてみました。すると神主さまは
「そうそう。竹の子を掘ったら死んでしもうた。どうしようかと考えてみたが、このままにしとくのも可哀相だから、結局俺が奉りをしてやったよ」
「そりゃ有難うございました。それなら死骸は俺の方に引取りましょう」と、かんねは神主さまの意地悪な仕打ちをやりこめてやろうと、言いました。
 すると神主さまは「えへん」と、咳ばらいをして
「竹の子の死骸はそのままにしておくわけにもいかん。さて、どこに埋めてやろうかと考えた末、俺の腹の中に埋めてやったよ」これを聞いたかんねは
 「この欲張り神主めが」と、腹を立てましたが、今更竹の子を返せと言っても、返してくれるはずがありません。
 仕方なく家に帰りましたが、このまま引き下がっては裏町かんねの名にかかわります。家でしばらく考え事をして、再び神主をやりこめてやるため出かけようとしておりました。
 その時です。表の戸をガラリと開けて、ドサッと何か投げ込まれました。かんねは驚いて大きな声を出して
「誰だ!家の中に物を投げ込む奴は」と、怒鳴りました。すると
「隣の神主だよ。お前が、竹の子が死んだと落胆しているようだから、遺品(かたみ)分けに、竹の子の着物を持って来てやった」と言う声がしました。慌てて戸口に出てみますと、表の土間に竹の皮がたくさん投げ込まれていました。
            今日の話は、ここまで…。
               (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2002.6.10  

 

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