唐津の民話  

 

 
「かんねばなし7」  
「夏みかん」

 今日は、勘右衛(かんね)どんが、キツネをだました話ばしゅうだい
 かんねは、佐志の大庄屋さまに呼ばれて中山峠を登っておりました。この中山峠は、その昔、太閤さま(豊臣秀吉)が名護屋に行くために通った道なので、太閤道と名のついている道筋の峠です。それで昔は人通りが多かったのですが、坂道なので妙見を通る道が出来てからは、人通りも少なくなっておりました。しかし、近道ではあるし、かんねは急いでおりましたから、この峠を通りました。
 峠を登って佐志側に下りかけた時のことです。品のいい娘さんが佐志側から登って来るのに出会いました。
「こりゃ、よか娘さんだ。どこの娘だろう」と思って声をかけようとしました。その時です。かんねが娘の足元に目をやりますと、着物の裾から太い尻尾が出ているのが見えました。
現在の中山峠
「そうだ、中山峠にキツネが出ると聞いていたが、このキツネのことだな。それにしてもこのキツネ、まだ化け方が下手だな。よし、からかってやれ」
「こりゃ、キツネ、お前は上手に化けていると思っておろうが、お前の尻尾が出ているぞ。そのくらいじゃ俺にはかなわんなぁ」と、キツネをからかいました。キツネは、化けの皮がはがされたかと思うと気が小さくなって
「しまった!かなわん人に会うてしもうた」と思うと神通力はなくなり、もとのキツネになってしまいました。
「俺は裏町のかんねという者じゃ。唐津では少しは知られた化け方の先生だよ。いい時に会うた。俺が化け方を教えてやろうか」と、キツネに言いました。すると、すっかり度肝を抜かれているキツネは
「この人はよほど化け方のうまい人らしい。化け方を習おうかな」と思い
「それなら教えてくだされ」と、ピョコンと頭を下げました。その可愛らしいこと。かんねは機嫌よく
「よか、お前がそう頼むのなら教えてやろう。その前に、お前がどのくらい化けるか、お前の化け方の力を見てみたい。俺の言う通りに化けてみんか」
「初めに、そこの夏みかんの木に登って、みかんに化けて見せてくれ」と言いました。キツネはかんねの言いつけ通り、みかんの木に登り、口にみかんの葉をくわえ、尻尾で顔を二、三度なでて、みるみるうちに夏みかんに化けました。するとかんねは
「まあ、大体よかごたる」と言って、庄屋さまへの土産として持っていた赤身鯨の袋の口を開け、化けみかんの下に置きました。
 すると、キツネの大好物の鯨の匂いが木の上にたちこめますので、食いたくてたまりません。キツネは思わず、みかんの木から手を離してしまいましたから、その化けみかんは、トッポリと袋の中に落ち込んでしまいました。
 するとかんねは、その袋の口を紐でしっかりと結びました。キツネは袋の中で暴れましたがどうしようもありませんでした。
            今日の話は、ここまで…。
               (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2002.5.10  

 

 

  

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