唐津の民話
. 「かんねばなし3」
今日は、勘右衛(かんね)どんが、「鼻水入り」の飯ば、食べさせられそうになった話ばしゅうだい 伯母さんは、裏山から松の枝を拾い集め、かまどに火をつけました。しかし、大半が生木でしたから、少しも火がつきません。煙がもうもうと出て、伯母さんは煙に巻かれ、ススだらけの手で、目をこすりこすり、火吹き竹でふうふう吹きますが、なかなか火は燃え上がりません。このさまを見ていたかんねは、 「伯母さん、目が悪いのに汚れた手でこすると、なお悪くなるよ」 「そうなァ、お前の言うとおりじゃなァ」と、言いながらも、可愛い甥に白飯を食べさせようと一生懸命ですから、やっぱり目をこすりこすりしながら、火吹き竹を吹いておりました。やがて伯母さんの努力のかいがあったのでしょう、火の具合も良くなって、飯の方もたぎりだしました。 「この調子なら、よか飯の出来るよ。もう少し待っとってね」と、言いながらも、伯母さんは久しぶりに炊く白飯ですから、そわそわして落ちつきません。 炊きあがる頃になると、炊き具合はどうかと、釜の蓋を取って中を覗き見しております。その頃になると、家の中に立ちこめていた煙も薄くなり、伯母さんの様子も、かんねの所からよく見えるようになりました。 かんねが、伯母さんの様子をよく注意して見ておりますと、釜の蓋を取って中を覗く伯母さんの手は、時々鼻の先に動いて行きます。そして、そのたびに、鼻水が釜の中へ「スタ〜」っと落ちこんで行きます。 飯の中に伯母さんの鼻水が入りこむのを見たかんねは、今まであれほど食べたいと思った白飯でしたが、急に胸糞が悪くなってきました。 「伯母さん、急用を思い出した。今日はもう帰るよ」と、言いながら立ちあがりかけました。伯母さんの方は、なぜかんねが急に帰ると言い出したのか、少しも分りません。 「何ば言うとね。もうすぐよか白飯の炊けるよ。そう急がずにもう少し待ったらどうね」と、しきりに止めようとしました。しかし、かんねは、鼻水入りの飯を食わせられたら大変です。 「いや、飯を食っとる暇はなか。この次にご馳走してもらいますばい」と言うより早く、伯母さんの家を飛び出しました。 この話にはまだ続きがありますが、今日は、ここまで…。 (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)
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