唐津の民話  

 
 
 『かんねばなし24』  
“十五毛猫”

 今日は、勘右衛(かんね)どんの、十五毛猫の話ば、しゅうだい
 大石村の大庄屋様には隠居様がおいででした。
この隠居様は生き物が大好きで、なかでも猫を可愛がっておりました。ですから隠居所には猫が何匹も棲みついていました。
 そろそろ春菜を採ろうという暖かい4月の頃です。かんねは隠居所にご機嫌伺いに行ってみました。
 隠居様は縁側に猫を抱いて、日向ぼっこをしていました。
「今日はよか日ですな。隠居様は達者ですか」
と、挨拶をしました。すると
「かんねか、お前の話はときどき耳にする。今日は久しぶりだが、ゆっくり話でもして行かんか」
と、喜んで歓待してくれました。だから、かんねも縁先に腰をおろし、隠居様の相手をしました。隠居様は猫ののどをなでながら
「お前も達者で何よりじゃ。しかし、この頃は物が高うなって、暮らしにくくなったな」
と、隠居様は物知りぶりをしてみせます。かんねは、隠居様は金持ちで、物が高うなろうが、さほど心配はないくせにと思いましたから、
「そうですな、諸式の高うなったため、日雇いをして暮らしている俺達にとっては、いくら働いても追いつきません。しかし隠居様は楽な身分でよかですな。大庄屋様は若いが評判はいいし、孫さんも皆揃って可愛いし、極楽に住んでおられるのと同じですたい」
こう、かんねがお世辞を言うと、隠居様は喜んで
「かんね、お前はひねくれているという話もあるが、本当はよか人間ばい。お前の言うとおり、わしは今が極楽よ。何の心配事もなか。この猫を見てくれ。こういう三毛猫はめったにおらんよ。わしが毎日ご馳走をやるから、毛がつやつやして美しかろうが」
と、猫自慢を始めました。

 隠居様の猫自慢はそれから延々と続き、さすがの長尻のかんねも聞き飽きました。
「こりゃたまらん。よし、隠居様をちょっと冷やかしてやれ」
と、考え
「本当によか三毛猫ですな。俺も猫好きで、方々で猫を見ますが、これほどよか三毛は見たことはありません。しかし、俺の家には十五毛猫を飼っておりますが、隠居様は見られたことはありますか」
と、言いました。すると隠居様はびっくりして
「そりゃ、本当か。わしも、猫のことはたいてい知っとるが、十五毛猫というのは初めて聞くぞ」
と、目を輝かせました。
「それなら、日もよかし、見に来ませんか」
と、かんねは、隠居様に誘いをかけました。

 そういうわけで、隠居様は散歩がてら、かんねの家にやって来ました。
 かんねの家は、掘っ立て小屋のように小さく、隠居様は戸口で頭を打たんように注意して家に入りました。
「早速だが、十五毛猫とやらを見せてくれ」
と、催促しました。
かんねが、「お花、お花」と呼びますと、かまどの中から、汚れてやせこけた猫が、よろよろしながら出てきました。これを見た隠居様は
「こりゃ、三毛猫じゃなかか。お前はわしを冷やかすつもりか」
と、腹を立てました。しかし、かんねは平気な顔をして
「この猫は、もともとは三毛でした。それが、このお花は、かまどの温もりが好きで、いつもかまどの中に入ります。それが、2.3日前、まだ火が残っている処へ入り、毛を焼いて火傷をしました。だから、今よろよろとしております。三毛が八毛(焼け)になり、四(し)けています。合わせて十五毛猫という状態ですたい」
と、言います。
 こう、平気な顔で説明されては、隠居様もあっけにとられてしまい
「お前は、わしをこう騙して、二の句がつげられんよ。しかし、こう上手に騙されるとは、わしも馬鹿なもんだ」
と言って、帰って行きました。

         今日の話は、ここまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2003.10.18  

 

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