唐津の民話  

 
 
 『かんねばなし21』  
“そりゃ、うそじゃ”

 今日は、勘右衛(かんね)どんが、龍源寺の和尚さまば、やり込めらした話ば、しゅうだい
 かんねの旦那寺は龍源寺という大きなお寺でした。この寺は大石村の小高い山の上にあり、昔、太閤様が名護屋城に来た時には、名護屋にありましたが、唐津城が出来た頃、今の所に移って来た、唐津でも古くて位の高い寺でした。
 この寺の和尚様は評判が良く、かんねをよく可愛がりますので、よく遊びに行っておりました。また和尚様も、かんねの話が面白いので、話を聞くため、よくかんねを呼んでおりました。
今は唐津市十人町にある龍源寺
 しかし、かんねの話は、たいていの時はうそが多いので、かんねの話の途中で
「そりゃ、うそじゃ」
と横やりを入れるので、かんねは
「本当の話をしても『そりゃ、うそじゃ』とおっしゃるから、話しとうなか」
と文句を言いました。せっかくかんねを呼んでも、面白い話をしてくれなければ、呼んだかいがありませんので、和尚様はかんねの機嫌を直すように
「今日は話が終るまで『そりゃ、うそじゃ』とは絶対に言わん。ここに一両置いとく。もし、約束を破ったらこれをやろう」
と約束をしました。これで機嫌を直したかんねは話を始めました。
「俺は去年の二月、大宰府詣りに行きました。丁度梅の花が満開で、それは見事なものでした。また、梅の香りは大鳥居の処まで匂って、そりゃ、よか見物でした」
と一息入れますと
「そりゃ、そうじゃろう。九州一の梅の花じゃ、遠くまで匂うじゃろうな」
と、和尚様は合槌を入れて話に乗って来ます。
「大宰府の門は古いという話でしたが、丁度塗り替えたばかりでしたから、ピカピカ光っていました。あまり見事に光るものですから、顔を近づけてみると、鏡のように顔が写りました」
と、かんねはだんだんホラを吹き始めました。和尚様は、またかんねがホラを吹き始めたなと思われましたが、約束ですから
「そりゃ、そうじゃろう。九州一立派な天満宮だからな」
と合槌をうちました。
「そこで俺も金持ちになれるようにと奮発して、一両の大金をおさい銭にあげて詣りました。そうしたら、神主様が奇特なことだと言うて御神酒を下された」
と、だんだんホラが大きくなりました。和尚様は
「かんねの奴、一文も余分な銭は持たんくせに、うそを言うている」
と思い
「そりゃ、うそじゃ」
と口先まで出かかりましたが、それを言ったら大変ですから
「うん、そりゃ、よかことばしたな」
と、ほめました。そこでかんねは
「俺が一両もおさい銭を出すはずがないことは、和尚さまは見通しのくせに、和尚様も俺の口車には乗って下さらん。そんなら、もっと大嘘ば言うちみんこて」
と、また話を続けます。
朝鮮出兵の名残り、鎮西町の名護屋城址
「それから、太鼓橋の処に引き返して来たときです。『下にぃ、下にぃ』の声が聞こえて来ました。こりゃ、偉か人のお通りに違いなかと、道の端に座って待っておりますと、博多の黒田の殿様の御行列でした。
 何しろ52万石の殿様ですから、唐津の6万石とは比べものにならぬほど立派な行列でした。
 行列が止まって殿様が駕籠から出られましたが、その着物の綺麗なことと言ったら、目がまぶしくて、開けとけんほどでした」
と、べらべらしゃべります。ですから、かんねの口車に乗らんようにと、用心しておられた和尚様も、その話につられて
「そりゃ、そうじゃろう」
と感心しました。
「それから殿様は、草履をおはきになりましたが、その時です。楠の木の上に止まっていた鳥が糞をたれ、それが運悪く殿様の着物にかかりました。そうしたら、殿様が『着物を替えろ』と仰せられました。すると家来が『へい、只今』と言ってすぐに着替えの着物を持って来ました。その早いことと言ったら、びっくりしました」
「そりゃ、そうだろう。黒田の殿様なら、それぐらいのことは、すぐ出来られるじゃろう」
と和尚様はさほど驚きもしません。
「そこで、後はどうなるだろうと見ておりました。殿様は太鼓橋の方へ歩きかけられました。そしたら、また鳥が糞をして、今度は殿様の頭の上に落ちました」
と、かんねが話します。すると和尚様は別に驚きもせず
「そういうことも、時にはあろうな」
と合槌をうちます。かんねは、こう、嘘とわかっていることを言っても、和尚様は『そりゃ、うそじゃ』と言ってくれないものだから、疲れてしまいました。しかし、ここで話を止めてしまったら負けになりますので、もうひと踏ん張りと思って
「そうしたら、殿様は怒られて『無礼者!!』と叱られました」
と話を続けました。
現在の唐津市大石町
「そりゃ、そうじゃろう。いくら何でも、頭の上に糞をかけられては、怒るに決まっとる」
と、また合槌をうちます。そこでかんねは
「そして、殿様は大声で『頭を取り換えろ』とおっしゃいました。すると家来が『承知しました』と言って刀で殿様の首をバッサリと切り落とし、用意していた殿様の首を代わりにつけました。そうしたら、ビックリしましたよ。殿様は若殿様に代わられました」
と、出まかせも、出まかせの話をします。ですから、初めのうちは用心していた和尚様も、いつのまにか約束を忘れてしまい
「そりゃ、うそじゃ。首のすげかえは出来んぞ」
と、つい言ってしまいました。すると、かんねは聞こえぬふりをして
「和尚様、今何と言いました。もういっぺん言って下され」
と念を押しました。
「そりゃ、嘘だと言うた。いくら何でも、お前の話には嘘が多過ぎる」
と和尚様はかんねをたしなめるように言いました。するとかんねは
「そんなら、約束の一両は貰います」
と目の前に置いてあった一両を取り上げました。ついに、かんねの口車に乗せられてしまった和尚様は
「しまった。また、かんねにやられてしまった」
と言って、頭を両手で叩き、くやしがりました。
         今日の話は、ここまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2003.7.6  

 

inserted by FC2 system