唐津の民話  

 
 
 『かんねばなし20』  
“日本一の山”

 今日は、勘右衛(かんね)どんの、日本一の山の話ば、しゅうだい
 大石村の若者達が若者宿に集まって、世間話に花を咲かせておりました。一人の若者がいかにも得意顔に
「日本一高か山はどこにあるか知っとるかい」
と、尋ねました。するともう一人の若者が
「そりゃ 駿河(静岡県)の富士山ばい。不二とも書くから、あの山より高か山はなか」
と、知ったふりをしました。そのとき かんねは横になって寝ておりましたが、すぐに起きあがって
「なんちゅうことを言うか。この馬鹿者どもが」
と、大声を出しました。
市民の憩いの場になっている鏡山
 話をした者も、話を聞いた者も、なぜ かんねが大声を出して怒鳴ったのか分からず、びっくりしてしまいました。中でも馬鹿者と言われた若者は真っ赤な顔をして怒り
「馬鹿者は、かんね お前じゃなかか。誰にでん聞いてみんかい。日本一の山は富士山だと言わすぞ」
と、文句を言いました。すると、かんねは
「そう、思い込んどるけん、馬鹿て言うとぞ。唐津ん近くに日本一の山があるとば知らんとは、情けなかなァ」
と、言います。それで若者はますます意地になって
「そん山はどこにあるか言うちみんかい」
と、かんねに詰め寄ります。しかし、かんねは落ち付いて
「そんくらいのことも知らずに、恥ずかしゅうはなかか。中町の竹屋のうなぎば賭けるなら、教えてもよか」
と、若者をひやかします。すると若者はますます頭に来て
「よし、賭けをしよう」
と、かんねの賭けに乗ってきました。するとかんねは右手で胸ぐらをトンと叩き、ゆっくりと
現在もある中町の竹屋
「その山は、鏡山たい」
と、言いました。すると若者は目の玉を白黒させながら、
「鏡山? 鏡山がなんで日本一高か山かい。かんね、お前こそ馬鹿者ばい。いいかげんなことば言うとはやめといてくれ。あん 低っか山がなんで日本一かい。浮岳より低かじゃなかか」
と、反対にかんねをやりこめます。すると
「そう、見たとおりにいかんところが面白かと。お前達は毎日鏡山ば見とるけん、低かて思うとろうが。よう考えてみろよ。鏡山は名前のとおり、今はかがんじょる(かがんでいる)。あの山が立ち上がってみろよ。どのくらい高くなるか見当もつかんぞ」
と、教えました。この話のやり取りを、脇で聞いていた若者たちは
「本当、本当、かんねの言うとおりじゃ」
と、かんねの意見に同意しました。そこで、この賭けはかんねの勝ちとなり、かんねは竹屋のうなぎをただで食べました。
         今日の話は、ここまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2003.6.10  

 

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