唐津の民話  

 
 
 『かんねばなし17』  
“飾り鯛”

 今日は、勘右衛(かんね)どんの、飾り鯛の話ば、しゅうだい
 裏町のかんねは怠け者で、働きませんから、食べるものにも不自由するほどひどい貧乏でした。
ですから、くんち(祭日)になると、ただでご馳走が食べられるので、くんちと聞けばどこの村のくんちにも出かけ、知らない人の家にも、心臓強くあがり、遠慮会釈なくご馳走になっておりました。
 かんねのように他人の家に勝手に行けるのは、唐津の辺りでは、くんちに限り、無礼講といって、誰でも歓迎してご馳走をしてもてなす習慣があるためで、かんねのような横着者が現れるわけです。
 秋になると、唐津の周辺では、唐津くんち、相知くんち、鏡くんち、浜崎くんちと、次から次へとくんちが沢山あります。だからかんねは、ご馳走に事欠くことはありませんでした。
現在の浜崎

 浜崎くんちの日になりました。かんねはこの日を当てにして、3日前から飯を減らして待っておりました。
 くんちの日、かんねは、一張羅の着物を着て浜崎に出かけました。
いつもなら手ぶらで出かけますが、この日は左手に目の下一尺(30cm)の鯛を下げております。かんねと出会う人は、その都度に
「こりゃ、珍しいこともあるもんだ。かんねが魚を下げてくんち参りをしとるばい」と、ささやき合っておりました。
 かんねは、浜崎に着いたら一番大きな家を見つけて、その家にさっそうと入って行きました。
「くんち参りに来ました」と大声で案内を請いました。家の人はかんねの姿を見て
「ずうずうしいやつが来たばい」と思いましたが、くんち客を入れないわけにはいきません。仕方なく玄関に出て見ますと、いつものかんねと違って、大きな鯛を下げて来ております。
 急に愛想よくなって
「よう来てくれた。さあ、さあ、上がらんけ」と歓待してくれました。
 かんねは持ってきた鯛は、玄関わきの柿の木の枝に下げ、座敷に上がりました。
 家の者たちは、かんねが鯛を土産に持って来たと思っておりますから、上等客と思い、床の間の上座に案内しました。
 かんねは気分満点で、よく食べ、よく飲み、胃袋が破れるくらいご馳走になりましたが、家の者は少しも不快な顔をせずに、かんねをもてなしました。
 それでかんねは調子に乗って
 ♪あけはよい風 沖まじゃやらぬ 磯の藻ぎわで 子持ち捕る
 ♪親子船かり 万崎沖に 采をふりあげ みなとを招く
 ♪みなと三重側 そん脇ゃ二重 せみの子持ちゃ 逃がしゃせぬ
 ♪納屋のろくろに 網くりかけち せみを巻くのにゃ 暇もなか
と、鯨捕り唄まで出しました。それで家の者は喜んで
「かんねどんな、唄の上手か」と、ほめますので、時間が経つのも忘れてご馳走になりました。

 あまりにもかんねが長居をするので、家の人も、そろそろ帰ってくれたらと思うようになりました。
帰ってもらうにしても、いつかんねが下げてきた鯛をくれると言うかと、心待ちにしておりましたが、なかなか、かんねは鯛の話をしません。
 家の者が我慢しきれなくなった頃に、急に立ち上がり
「たくさんご馳走になりました。有難うございました」と、お礼を言うより早く玄関を出て、柿の枝に吊るしていた鯛をはずして帰りかけました。家の者はあわてて
「かんねどん、その鯛はうちにくれるとじゃなかかい」と尋ねました。
するとかんねは
「そういうつもりで持って来たつじゃなか」と言って、さっさと帰ってしまいました。
 家の者は、こうもすげなくやられると、二の句がつげず、ポカンと後を見送っておりました。
 こうしてかんねは、鯛を下げては、次から次へとくんち参りをしました。
         今日の話は、ここまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2003.2.20  

 

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