唐津の民話  

 
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 『かんねばなし12』  
“大根の苗植え”

 今日は、勘右衛(かんね)どんの、大根ば、苗植えさした話ば、しゅうだい
 かんねは、百姓をだまして、冷やかすことをよくやっておりました。
 暑い夏が過ぎ、朝夕涼しい風が吹く頃になると、百姓達は大根の種子を蒔きます。そこへかんねがやって来ました。
「吾作どん、精が出るのう。何をしとる?」と聞きますと
「大根の種ば蒔いとりますバイ」と返事をしました。
「ほぉう、大根は種を蒔くのかね。そんな古いやり方は上方(京都・大阪地方)じゃ流行らんバイ。太か大根ば作りたかなら、苗床を作って苗を仕立て、その苗を植えるとが、新かやり方と決まっとるバイ」と、いかにも自信ありげに、かんねが言います。
 まじめだが少々頭の回転のにぶい吾作は、それを真にうけて
「ほんとかね。そんならひとつやってみんこて」と早速大根の苗を作って畑に植えました。

 秋も過ぎ、いよいよ大根のとり入れ時です。吾作の苗植えの大根は、葉も今までより倍も繁り、根首も大きくなりました。吾作はかんねが言った通りにしたから今年は良い立派な大根が穫れるだろうと、楽しみにしていました。
 ところが、いざ大根を抜いてみますと、どれもこれも根は枝分かれをして、売り物にはなりません。
「こりゃかんねにだまされた。よし、そんなら反対にかんねをだましてやれ」と考え、よそから太い立派な大根を買ってかんねの家にやって来ました。
「かんね、おるかい。今日はお礼にやってきたよ。お前の言う通り大根の苗植えをしたら、この通り立派な大根が出来た。これはほんのお礼のしるしよ」と、かんねに立派な大根をくれました。
 かんねは、口から出まかせに大根の苗植えのことを話したので、こうお礼を言われるとびっくりしてしまい
「出まかせに教えたのに、こう立派な大根が出来るなら、俺もやってみよう」と思いこみました。

 そして次の年、大根の苗を植えました。なるほど葉が良く繁って立派な大根畑に見えました。そこでかんねは嬉しくてたまりません。会う人毎に大根畑の自慢をしました。
 いよいよ大根の穫り入れ時になりました。
「家の大根ば見てくれんか。誰も作ったことのないような立派なもんじゃろうが」と、のぼせて大根の宣伝をしますので
「かんねの自慢の大根を見物してみようか」と百姓達が集まってきます。
 かんねは自慢たらたら大根を引き抜きました。枝分かれの大根です。おかしいなと思って次のを引き抜きましたが、やっぱり枝分かれです。結局全部枝分かれの大根ばかりでした。
 このありさまを見ていた百姓達は
「素人のかんねがやることは、ろくなことはなか」と大笑いしながら帰っていきました。かんねは後で気づき
「こりゃ、吾作に敵討ちされたバイ」と残念がりました。
         今日の話は、ここまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2002.10.2  

 

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