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「かんねばなし1」
「声かけてくれ」
今日は、勘右衛門(かんね)どんが、神主さまば、かつがした話ばしゅうだい
かんねの家の西隣にお伊勢さまの札所があって、そこの神主さまは、お伊勢さまを詣りに行く人を集めて、伊勢講というものをつくって世話をしておりました。
この神主さまは、人の世話をしているにもかかわらず、愛敬のない方で、時々かんねと喧嘩をしますが、喧嘩となるとたいていかんねが負けます。そこで、かんねは、いつかはきっと敵を討ってやろうと思っていました。
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現在の浜崎 |
明日は浜崎のお諏訪さまのくんち(祭日)という日の朝方、かんねが神社の鳥居に向かって小便をしておりますと、神主さまが見とがめて、さんざんに叱りつけました。そこでかんねは、自分が悪いことをしたことは棚に上げて、一日中腹を立てておりました。
晩方になり、神主さまは、朝方かんねを叱りつけたことは忘れて、かんねの家に来て
「かんね、明日は浜崎くんちじゃな。お前も行くじゃろう。俺も行こうと思っとる。ちょっと頼まれてくれんか。お前も知っているとおり、俺は朝寝坊じゃ。お前が起きた時に声かけてくれんか」と頼みました。するとかんねは
「神主の奴、今朝俺を怒鳴ったくせに、それを忘れて…」と腹を立てましたが、顔色はかえず
「こえばかけるとな、よかたい」と神主の頼みを引き受けました。
あくる朝になりました。神主さまが目を覚ましてみると、雨戸の隙間から太陽の強い光がさしこんでおりました。
「かんねの奴あれほど頼んでおいたのに、頼みがいのない奴じゃ」と腹を立て、ぶりぶり言いながら雨戸を開けますと、外の風につられて糞(くそ)の匂いがぷんぷん入り込んで来ました。
「こりゃ臭か!? 他人の家の前に、誰か糞ばたれたもんがおる。けしからん!」と言いながら、戸口に出て見ますとどうでしょう。神主さまの家の前一面には、肥桶(こえたご)をひっくり返したように、人糞がふりまかれております。
「誰だ!こんないたずらをした者は!」と顔を真っ赤にしてわめき立てました。
夕方になって、かんねは、くんち酒を飲んで気分よく帰って来ました。神主さまの家の前に来ますと、神主さまは手伝いを雇って家の前を水で洗っております。かんねは神主さまに
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浜崎くんちは諏訪神社のお祭り |
「どうしました?大変な仕事のようですが」
「どうもこうもあるもんか、誰かが家の前に糞ばふりまいたらしか。今その後片付けじゃ」神主の機嫌が悪いのを悟ったかんねは
「そりゃ大変ですな。浜崎くんちにも行かれず残念なことですなぁ」と神主さまをからかいました。すると、神主さまはますます機嫌を悪くして
「かんね、お前は俺をだましてけしからん。あれほど頼んどったのに、なぜ、声をかけてくれんだったか」とかんねに文句をつけました。すると、かんねはすました顔で、
「俺は、お前さまに頼まれたとおり、ちゃんと肥(こえ)ばかけましたばい。見たとおり神主さまの家の前あたりに肥かけとったでしょうが」とまじめな顔で言います。
「こりゃしもた。またかんねにしてやられたばい」と気付いたが文句の言いようもなく、神主さまは泣き寝入りに終わりました。
今日の話は、ここまで…。
(富岡行昌 著 「かんねばなし」より)
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