唐津の民話  
 

 

 
 『かんねばなし55』  
“極楽の門” その2

今日は、勘右衛(かんね)どんの、えん魔様ば騙さした話の続きば、しゅうだい。
   (5年にわたって連載してきた勘右衛話もいよいよ最終話となりました。
   少し読みにくいとは思いますが、すべて唐津弁で書いてみました)

 勘右衛は <こりゃしもた。生きとるときに、うんと良かことばしとけばよかった> と思いましたが、恐ろしがってばかりもいられません。
 また、じっと鏡の中ば見つめとりました。そしたら、知り合いの人ん見つかったとです。
現在の材木町
「ありゃ 三日前に死なした材木町ん六兵衛さまじゃなかか。あやん良か旦那様ん舌ば抜かれち…。
 ありゃ痛かばい。鬼どん、あん六兵衛旦那さまは、唐津じゃ評判の良か金持だったとこれ、何であやんかめに合わにゃいかんとけ。何か悪かこつばさしたつけ?」
と、赤鬼に尋ねました。
「あん六兵衛はな、うわべは良か人間のごて見ゆるばってん、商売の材木売りじゃ、すらごつ(嘘)ばっかり言うち、百姓や木挽きたちば泣かせとったし、役人にゃ袖の下ばいっぱいつかませち、自分に都合の良かごてばっかりしかしよらんだった。生きとるときにゃごまかされてん、えん魔庁ん鏡にかかったら、何んでん ほんな姿に写るとたい」
 勘右衛は、ますます恐ろしゅうなりました。

 そんうち、えん魔様が手下ば何人も引き連れち入って来ました。そして、立派な椅子にでんと腰ば下ろしました。
 えん魔様は、絵でも見たことんあるごて、顔中髭ば生やして、大きな腹にゃ鉄の帯ばしめち、左手に杓子んごたるとば持って、腰にゃ長かん長か(長い長い)刀ば差していました。
「夫婦で揃って死ぬとは珍しか。お前たちはどこん者か。名ば名乗れ」
 えん魔様ん声は、雷さんの鳴るごたる大きな声で、耳ん破れそうでした。
いくら横着者の勘右衛でん、オロオロするばっかりで声も出ません。
「早う言わんか。言わんと地獄に落とすぞ!!」
 雷さんのごたる声で怒鳴られた勘右衛は、恐る恐る
「俺は勘右衛という者で、唐津の裏町に住んでおりました。俺の横におるとが、はま というて、俺の嫁御です」
「お前たちは生きとるとき、どやんこつばしとったか。正直に言わんと地獄に落とすぞ。すらごつ(嘘)ば言うと、こん鏡に映るけん、すぐ分かるぞ。ほんなこつ(本当のこと)ば言え」
と、えん魔様は大声で言いました。
「俺は若か頃は百姓でした。ばってん、働くことが嫌いで、田んなか(田んぼ)は無うなってしまいました。今は日雇いばしとります。俺ん嫁御は魚売りですたい。ばってん、俺んごて正直者な、暮らしの苦しか中ですけん、女房にゃ大変な苦労ばさせました。せめて死んでからなりとん、極楽さんやって貰いたかと思うとります」
 勘右衛は精いっぱい答えました。
「お前は自分で正直者だと言うばってん、生きとるときは、すらごつ(嘘)ばっかり言うち、人々ば騙しとったこつは、こっちでちゃんと調べんついとる。嫁御ん方は、おとなしゅうして、評判の良かったこつも分かっとる。こんまま決めると、勘右衛、お前は地獄行きじゃ。嫁御ん方はどうしょうかと迷うとる。勘右衛何か言うことんあるか?」
 勘右衛は、<地獄さん落とされたら大変だ>と思うとりますけん必至でした。
「えん魔様、そりゃ あんまりです。せちがらか世の中で暮らすにゃ、俺ぐらいのすらごつ(嘘)は誰でん言うとります。ものは相談ですが、どうせ地獄さんやられるとなら、地獄じゃ好きなこともされんでしょうけん、今ここで好きな唄と踊りばさせち下され」
と、頼みました。
「面白かこつば言う奴じゃ。よか、許すけんやってみろ」
と、えん魔様は勘右衛の頼みば許してやりました。
「おはま、えん魔様ん許しん出たけん、一緒に踊ろう」
と、勘右衛は嫁御の おはま ば誘って踊り始めました。

   ♪♪玄界灘を ゆりかごにゆりかごに 松浦嵐を 子守唄 子守唄
      育ったおいらは 唐津っ子 唐津っ子
       あぁ エンヤ エンヤ エンヤ エンヤ♪♪
   ♪♪玄界灘を ゆりかごにゆりかごに……

と唄いながら踊り出しました。
 これを見た、えん魔様も鬼たちもびっくりして
「こやんか踊りゃ初めて見たぞ。なかなか面白かぞ!」
と、手ば叩き始めました。そんうち、えん魔様も膝ば乗り出して
「こりゃ面白か。俺も踊ってみたか。勘右衛 教えんか」
と言いました。
 勘右衛は、自分の着とったハッピば脱いで、えん魔様に着せました。
 えん魔様は、勘右衛ん真似して踊り始めたら、面白うして面白うしてたまりません。阿呆んごてなって踊り続けました。
 そのうち勘右衛は、えん魔様ん着物ば着てしまいました。そうしたら誰が見てん、えん魔様んごて見えました。
 勘右衛は、えん魔様ん立派な椅子に座って
「こりゃ 勘右衛、お前はいつまで踊っとるか。いくら踊ってん、法は法じゃっけん曲げられん。お前はやっぱり地獄行きじゃ」
と、大きな声で言いました。
 面白く踊っていた、えん魔様はびっくりして、声んする方ば見たら、自分と同じ格好をした勘右衛が、自分の椅子に座っております。
「こら 勘右衛、冗談するな。早う降りて来い」
 勘右衛は更に大きな声で
「こりゃ 勘右衛。俺に向かって何ちゅうこつば言うか。青鬼、赤鬼ども、早う そ奴ば地獄さん追いやれ!!」
と、大きな声で命令しました。
 鬼どもは、勘右衛とえん魔様を間違えち、本物のえん魔様ば地獄へ落としてしまいました。
 そんあと、勘右衛は“えん魔帳”ば自分の都合ん良かごて書き換えち、夫婦連れ立って極楽さん行きましたと・・・。

 勘右衛話しゃ、こいで全部おしまい。
                 (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)

 5年もの長〜か間、俺が話に付き合うちもろち、感謝しとるばい。
 ほんなこて  おおきに!  おおきに!!
                         極楽から かんねより            



2006.08.8

 

 

 

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