唐津の民話  
 

 

 
 『かんねばなし54』  
“極楽の門” その1

今日は、勘右衛(かんね)どんの、えん魔様ば騙さした話ば、しゅうだい。
(5年にわたって連載してきた勘右衛話もいよいよ最終話となりました。少し読みにくいとは思いますが、説明文もすべて唐津弁で書いています)

 勘右衛が知り合いの魚屋に遊びに行ったら「よう来た。よう来た」と言って、大きかフグばくれました。そして魚屋は
「フグ料理ん仕方は難しかけん、俺がこしらえち後で届きゅうだい」
と言うたとばってん、勘右衛は貰い損ねちゃ大変と
「フグん こしらえ方は、よう知っとるけん、今 貰うち行くばい」
と言うと、急いで持って帰りました。
「フグば貰うちきたけん、今日はご馳走んできるぞ」
と、嫁御に言いながら、自分で料理しました。
現在の唐津くんちの曳き山
でき上がったら早速、勘右衛夫婦は「うまか。うまか」と言いながら、嫁御と二人で腹いっぱい、食べきるだけ食べました。
 ところが、後かたずけばしとる最中に、二人とも急に体んしびれてきました。
「こりゃ しもた!フグん毒にあたったばい!」
と、気付きました。ばってん、フグの毒ば消す薬はありません。二人とも手遅れになって、そのままあっけなく死んでしまいました。

 唐津のあたりじゃ、死んだら経かたびらば着せ、頭には三角の布ば付け、六文銭ば持たせる習慣でした。ばってん、勘右衛は貧乏だったけん、着流しの着物しか持っとりませんでした。
 そこで、町の世話役たちが、“唐津くんち”のときの“曳き山”のハッピば持ってきて着せました。
 唐津くんちというとは、唐津で一番賑やかなお祭りじゃっけん、そんとき着るもんなら、えん魔様も怒らすことはあるまいと思ったとです。

 勘右衛夫婦は、亡霊になって三途の川ば渡り、えん魔の庁にやって来ました。ここは極楽さん行かせるか、地獄さん落すかを、えん魔様ん決めらす処です。
 道々、勘右衛夫婦は極楽さん行かるるとか、地獄さん落さるるとか心配で心配で仕方ありませんでした。
現在の弓鷹町
「俺は生きとるとき、さんざん人ば騙したり冷やかしたりしたけん、もしかしたら地獄に落とさるるかもしれん。ばってんお前は人の良かばっかりで、悪かこつは何もしとらんけん、極楽さん行かるるだろう」
と、勘右衛が言いますと、嫁御は
「そやんか寂しかこつは言わんでくれんけ、あたし一人じゃどこさんも行かれんばい。あんたが地獄さん行くとなら、あたしも一緒に行くたい」
と言いました。
「馬鹿なこつば言うな。俺は生きとるとき、お前ばいじめたり、つらか思いばっかりさせとった。そんけん、死んでからなりと、極楽の方さん行ってもらわんと、俺りゃ死んでん死にきれん」
 嫁御は、死んで初めて、勘右衛から優しか言葉ばかけちもろち、涙ばぼろぼろこぼしました。そして
「そりばってん、あんたと一緒でなからにゃ暮らされん。地獄でんよかけん、一緒に行かるるごて、えん魔様に頼んでくれんけ」
勘右衛はちょっと考えごつばして
「よか。よか。俺に任せとけ。えん魔様ん前さん行ったら俺が言うごてするとぞ、よかな」
と、胸ば叩いて言いました。
 えん魔様ん前まで来ますと、赤鬼と青鬼が、太かん太か金棒ば持って立っとりました。
そん格好は弓町(現在は弓鷹町)の浄泰寺ん壁に貼ってあった地獄絵の赤鬼青鬼とよう似とるばってん、顔は何十倍も恐ろしく、思わず目ばつむってしまうほどでした。嫁御の方はがたがた震えち歩けんごてなってしまいました。
「俺がついとるけん恐ろしゅうなか」
勘右衛の励ましで、嫁御も元気ば出して、勘右衛ん後ろから恐る恐るついて行きました。
「今日は良か日和ですな。お世話になりますばい」
そう言うと、勘右衛は のこのこと門の中さん入ろうとしましたので、鬼どもが驚きました。
「こやん横着もんな初めちばい。えん魔庁さん来るとに、経かたびらも着らじ…。ここさん来て恐ろしがらんとは、今まで誰もおらんとに…」
勘右衛は、しゃあしゃあした顔で言いました。
「俺が裏町ん勘右衛たい。昨日死んだばっかりで、何も知らんとですたい。よろしゅう頼みますばい」
鬼どもは余計びっくりして
「話にゃ 聞いとったばってん、ここまで横着かもんな他にゃ知らんばい。そんうち、青うなって泣くじゃろだい。とにかく中さん入れ」
と、勘右衛夫婦ばえん魔庁へ入れました。

現在の浄泰寺
勘右衛夫婦が広か庭で待っとりますと、一刻して「ドドン、ドドン」と太鼓の音んして、目の前の暖簾のスルスルと上がりました。
 頭ば上げて、そっと見てみますと、びっくりするごて大きか鏡ん、きらきら光っておりました。
 目ばこらしてよく見ると、口や頭や腹ん中から、だらだらと血ば流した亡者たちが、苦しみもがいとる様子ん、大鏡の中に写し出されておりました。
 あまりの恐ろしさに、勘右衛は肝ばつぶし、嫁御ん方はとうとう気ば失うてしまいました。ばってん、勘右衛は強か振りばして、青鬼に尋ねました。
「あん、鏡に写っとるとは何け?」
「あれか、あれは地獄さん落ちた亡者どもが、のたうちまわっとる姿たい。お前もそんうち、あやんか格好ばするごてなるとたい」

         こん話ん続きゃ、またこの次にしゅうだい。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2006.07.11

 

 

 

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