唐津の民話  
 

 

 
 『かんねばなし53』  
“菜ば まいて50両”

今日は、勘右衛(かんね)どんの、和尚さまば騙さした話ば、しゅうだい。
(勘右衛話もいよいよ残り2話となりました。そこで、少し読みにくいとは思いますが、説明文もすべて唐津弁で書いています)

 唐津の東寺町は、お寺の多か処ですが、そん中でも法蓮寺は大きなお寺ん一つです。
 ここん和尚さまは勘右衛がお気に入りですから、勘右衛が寺に遊びに行くと、菓子などを出して歓待しました。ある日、和尚さまは勘右衛に
「こん寺は日蓮上人の始めらした日蓮宗の寺じゃっけん、こん寺じゃ南無妙法蓮華経としか言うたらいかんとばい。勘右衛、お前ん寺は龍源寺じゃっけん、禅宗たいな。そいでん、こん寺じゃほかの寺の題目ば言うたら、いかんとたい」
と、念ば押しました。そいばってん勘右衛は
現在の西十人町(旧東寺町)
「そやん堅かこつば言わんでちゃよかじゃなかな。どやんか題目ば唱えてん、極楽へは行けるとでしょ。いくら和尚さまでちゃ、他の宗旨の題目ば唱えることもあるでっしょうもん」
と、反対に文句ば言いました。それでも和尚さまは
「そういうこつは絶対になか。わしは生まれてから、ずっと南無妙法蓮華経ばっかり唱えちきた。わしに他の宗旨の題目ば唱えさせるこつができたら、50両やってんよか」
と言いました。そこで勘右衛は、いつか和尚さまに他の宗旨の題目ば唱えさせ、50両貰ってやろうと考えていました。

 それから3ヶ月ばっかり経ったある日のことです。勘右衛が久しぶりに法蓮寺にやって来ました。そうしたら和尚さまは喜んで
「勘右衛、久しぶりに来たな。丁度よか時に来たよ。さっき、田舎饅頭屋の破れ饅頭ん届いた。食べち行けよ」
と、歓待してくれました。破れ饅頭はうまかけん、勘右衛は二つ三つと続けて食べました。
「最近は、いっちょん姿ば見せんだったばってん、どこかに出かけとったつか?」
と、和尚さまん尋ねらすと、勘右衛は
「伊勢講に当ったけん、上方見物に行って来ました」
と、嘘ばつきました。そしたら和尚さまは
「そりゃ良かったな。何か面白か土産話しゃなかったか?」
と聞きました。すると勘右衛は
「そうそう、面白かこつんあったとですよ。そんうちでん、特別珍しか種蒔きば見て来ました」
と、話しました。すると和尚さまは
「ほう、どやんか具合にやるとかい?」
と、膝ば乗り出して聞こうとしました。そしたら勘右衛は
現在の法蓮寺
「一口じゃ言われません。実際にやってみた方が分かりよかけん、和尚さまどうですか、俺と一緒に、そん種蒔きの仕方ば、やってみませんか」
と、和尚さまにすすめました。
 和尚さまは、いつも面白かこつばっかり言う勘右衛が言うこつじゃっけん、そんなら勘右衛の真似ばしてみゅうかと、思わしたとです。

 そこで二人は、着物の尻ばからげ、手には、うちわ太鼓ば持って、本堂ん前の広場さん降り立ちました。
「そんなら、俺が先に所作ばしますけん、そん通りにつけて下さい」
と、勘右衛は和尚さまに指図ばして、種蒔きん振りば始めました。そこで、和尚さまも
「よか、よか。お前ん真似ばすれば、よかとじゃな」
と、言いながら、勘右衛んするごて、手ぶり足ぶりば真似しました。
 そのうち勘右衛は、太鼓ば、トーンと一つ打っちゃ、右足と右手ば上げ、もう一つ打っちゃ、左足と左手ば上げ、太鼓に合わせて、右手と右足、左手と左足を上げる踊りば繰り返し始めました。
 そして、そん度に
「菜まいた。菜まいた」
と、唱えます。こん格好は続けてやっとるうちに、だんだん面白うなります。和尚さまは勘右衛の真似に一生懸命でした。

 そうしているうちに勘右衛は
「和尚さま。これから段々と速くなります。続けち下さい」
と、注文します。和尚さまは面白うなったもんじゃっけん
破れ饅頭(昔はもっと派手に破れていた)
「よか、よか。お前ん言うごてするけん」
と、答えます。勘右衛は太鼓ば次々と速く叩き
「なぁまいた。なぁまいた」
と、唱えました。和尚さまも勘右衛に合わせて
「なぁまいた。なぁまいた」
と、続けました。すると勘右衛は、一段と太鼓を叩く速度ば速め、唱え方もうんと速うして
「なぁまいた。なぁまいた」
と、唱えました。勘右衛も一生懸命です。和尚さまも真剣そのもので、太鼓ば叩いちゃ
「なぁまいた。なぁまいた」
と、唱え続けておりました。そんうちに勘右衛が
「なぁーまいだ。なぁーまいだ」
と、唱えますと、和尚さまもそれにつられて
「なぁーまいだ。なぁーまいだ」
と、唱えました。こん声ば聞いたとたんに勘右衛は、踊りばやめて、すばやく
「和尚さま、50両貰いますばい」
と、手ば出しました。
 そう、勘右衛に言われちみれば、なるほど勘右衛の唱えにつられち、『南無阿弥陀仏(なぁーまいだ)』
と、言うちしもうたことに気付きました。和尚さまは
「しもた!! また勘右衛に騙されちしもうた」
と、口惜しがらしたばってん、約束どおり50両を勘右衛にやりました。

         今日ん話しゃ、こいまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2006.06.11

 

 

 

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