唐津の民話  
 

 

 
 『かんねばなし42』  
“貧乏神と福の神”

今日は、勘右衛(かんね)どんの、金貸しば、やりこめらした話ば、しゅうだい。
 勘右衛が住んどった裏町にゃ茂八という金貸しがおりました。
 茂八はいつも首から大きな巾着ばぶら下げて、貸した銭ば集めておりました。
 勘右衛は裏町一番の貧乏人です。茂八から銭を借りても怠け者ですから、利子も払えません。ですから、茂八の姿ば見るとすぐに逃げ隠れしておりました。
 ある年の大晦日のことです。勘右衛が大石町の角を曲がろうとしたら、ばったり茂八と出会いました。勘右衛は逃げるに逃げられず困ってしまいました。
 茂八は縁起ば担ぐ癖があり、朝のお茶に茶柱ん立ったと言うちゃ喜び、犬がお稲荷さまの鳥居に小便ばかけたつば見たと言うちゃ、
「今日は縁起ん悪かけん、金は貸さん」
と、折角銭を借りに来た人ば、そのまま追い返すこともありました。
現在の“大石町”
 いつもは、借金の返済ば催促しようと思うてん、なかなか会えぬ勘右衛でした。その勘右衛に、よりによって大晦日にばったり会うたとです。茂八は「嫌な奴に出会うたなぁ」と思いながら
「貧乏神 どこへ行く?」
と、勘右衛にいやみば言いました。すると勘右衛は
「今からお前ん家に行くよ」
と、応えました。そして本当に茂八の家へと行きました。
 この茂八は金儲けは上手ですが、頭の方は回転が少し鈍い方です。勘右衛が言うたことがすぐには解りませんでした。
 ですから、自分の言った『貧乏神』と、勘右衛が言うた『お前ん家に行く』を、結び付けて考えるには少し時間がかかりました。
 そのうちに やっと気が付いて、
「こりゃ 縁起ん悪かこつになった。貧乏神ん俺が家に入るということになる。こやん縁起ん悪かこつはなかぞ!」
と、考えつくと、その日は頭ん痛うして、銭集めも順調にはいきませんでした。

 一夜明けたら目出度い正月です。茂八は初詣に大石天満宮に行きました。
「去年の大晦日にゃ、勘右衛と会うたけん、縁起ん悪か思いばした。今年は勘右衛に会うてん、縁起ん良かごて、工夫しよう」
と考え、お札を受けて我が家に帰りかけました。そうしたら、ここでもまた勘右衛にばったり出会ってしまいました。
現在の“大石神社”
「正月早々勘右衛に会うとは縁起ん悪かこっちゃ。あれと話すと気分の悪うなる。ばってん、同じ町内に住んどって、話もせんわけにはいかん。そうそう、あれが喜ぶことば言うたら、いくら勘右衛でん、縁起ん悪かこつは言わんだろう」
と、茂八は勘右衛に向かって
「こりゃ 福の神、よかところで会うた。どこへ行って来た?」
と、精一杯のお世辞ば言いました。すると勘右衛は
「お前ん家から出て来たよ」
と、そっけない言葉で返事して通り抜けました。そいでん茂八は勘右衛の悪態づくしに気が付かず
「また勘右衛が、おかしなこつば言うなぁ」
と思うだけでした。
 しかし、そのうちに勘右衛が言った言葉の意味が解って
「福の神ん俺が家から出て行く」
と思いつき、茂八は正月早々、勘右衛からおちょくられて、気分の悪うしてたまらんだったそうです。

         今日ん話しゃ、こいまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2005.06.9

 

 

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