唐津の民話  
 

 

 
 『かんねばなし41』  
“不思議な棒”

今日は、勘右衛(かんね)どんの、不思議な棒ン話ば、しゅうだい。
 勘右衛が1本の棒を担いで百人町ば通っとると、町の若者たちが取り組み合って喧嘩をしておりました。
 あまりにも激しか喧嘩で、町の人たちは誰も止めることができず、うろうろしていました。
「よし! 俺が止めてやろう」
と、勘右衛は喧嘩の中に割り込みました。
「あぶなかぞ!入ったらいかん。あれどんな、評判の暴れ者じゃ。どやんか大怪我ばするかわからんぞ」
と、町の人が勘右衛の袖を引っ張って止めましたが、勘右衛は
「心配せんでンよか。こン棒にゃ念力のあるけん大丈夫」
と、言って喧嘩の中に入って、その棒をぐるぐる回して、
「こン喧嘩はやめろ。こン喧嘩はやめろ」と怒鳴りました。
 勘右衛が、棒ン当たろうが当たるまいが、お構いなしに振り回しますので、避けきれんで、とうとう喧嘩はやめて逃げ出しました。
現在の“百人町”
 その有様バ見とった野次馬の中に、和多田の西念寺の和尚さまがおりました。
 この和尚さまは、頭の方が少し足りませんが、ずるいお方ですから、勘右衛の棒があると、何かに付けて便利だと考えました。
「勘右衛、ひとつ相談に乗ってくれんかい。そン棒はほんなこて(本当に)念力のあるとか?」
と尋ねました。
 すると勘右衛は、「しめた!」と思いましたが、そこは悪知恵の働く勘右衛のことです。もったいぶって
「こン棒かね。俺が宮地岳さまに詣りに行く途中、山越えして背振山を通った。そン時天狗さまに出会うた。どうしたわけか天狗さまは腹痛バ起こしとらしてな、八転九倒の有様じゃった。そこで俺が持っとった熊の胆の薬バ少しあげた。そうしたら、すぐに治り、お礼にと言ってくれたツがこン棒たい。そン時天狗さまは『この棒は私欲に使うたらいかん。人助けだけに使いなさい』と言った。じゃけん誰にもやれん」
と、嘘を言いました。
すると和尚さまは、“そんなに有難い棒なら、自分の物にしたら、きっといいことがあるに違いない”と思いました。
「そやん有難か棒なら、ぜひ俺にゆずってくれ。寺の坊主は決して悪いことはせん」
と、熱心に頼みました。
「そやん頼むなら譲ってンよかばってん、ただじゃいやバイ。5両くれるなら譲ってンよか」
と、勘右衛が言うので少し高いと思いましたが、とうとう5両出してその棒バ買いました。

 西念寺は和尚さまが怠け者ですから、寺はどこもかしこも傷んで、人は住めぬほどでした。
 その中でも、特に庫裡は屋根が破れ、雨漏りがひどく、雨の日はとて居られたものではありませんでした。
現在の“和多田”
「よし、こン棒で庫裡バ新しうしよう」
と考え、庫裡に火をつけました。
 火はどんどん燃え広がり、見る見るうちに庫裡が燃え落ちてしまいました。
「ここらあたりで火を止めよう」
と考え、例の棒を右手に持って
「こン火消えろ。こン火消えろ」
と、棒をぐるぐる回して怒鳴りました。
 しかし、火は全然消えず、そのうちにつむじ風が出て、火の手は大きくなるばかりでした。
 そして、火の粉が飛んで本堂の屋根に燃え移りました。
 それでも、和尚さまは気狂いのように大声を上げて、棒を回しているばっかりです。ついに本堂も焼け落ちてしまいました。
 それで村人たちは
「こン馬鹿和尚は、この寺にゃ置かれん」
と、和尚さまを村から追い出しました。
 それで、今じゃ西念寺という寺は和多田にはありません。

         今日ん話しゃ、こいまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2005.05.10

 

 

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