唐津の民話  
 

 

 
 『かんねばなし39』  
“蛙と闇鍋”

今日は、勘右衛(かんね)どんの、闇鍋の話ば、しゅうだい。
 8月26日は「六夜待ち」といって、若者たちが若者宿に集まって、夜通し祝いをします。今年は闇鍋をしようということになりました。
 闇鍋というのは、誰でも人に知られぬように食べ物を持ってきて、暗闇の中でその食べ物を鍋に入れ、それを暗闇で一緒に食べようとするものです。
ですから誰がどんな食べ物を食い当てるか、食べてみないと分からない面白さがありました。
 勘右衛はこの闇鍋が大好きですが、勘右衛が持ってくる物は毎年ろくな物はないし、食べるとなると五人前も食べるので、他の者は勘右衛が入るのを好きませんでした。
 それで、今年は勘右衛には連絡をせずにおりましたが、地獄耳とでも言いますか、食べ物のこととなるとすぐに感づき、その晩になるとちゃんと出て来ました。
「今夜は鶏のもも肉ば持ってきたけん 加えちくれ」
と言いました。それで若者たちも
「勘右衛ん奴め、けちん坊んくせ、今年しゃ ちいーっと評判ば考えたごたる」
と思って加えてやりました。

 鍋の煮立った頃、あたりを真っ暗にして、持ち寄った食べ物を鍋に入れました。
そうして、食べ頃になり、皆がお碗に鍋汁をつぎ始めました。
 その時です。勘右衛は着物の袂から蛙を取り出して、自分のお碗に入れ、大声で
「なんだこりゃ ひこびき(土がえる)じゃなかか。これば入れたつは誰か。いくら闇鍋と言うてん 蛙ば入れちゃ 臭うして食われんぞ!!。いくら俺でん こやんか冗談なせんぞ」
と怒鳴りました。すると若者は、
「どうして 蛙ん入ったか分からん。いくら俺たちでん 蛙汁は食われん。これは捨てち、やり直そう」
と、その汁を捨てようとしました。すると勘右衛が
「せっかく作った汁じゃなかか もったいなか。家のばあさんは汁好きじゃ、蛙ん入っとったこつは知らんけん、食わせたら喜ぶよ。その汁は俺にくれんか」
と、頼みました。それで若者たちも
「どうせ捨てるもんじゃ、勘右衛にくれてやるよ」
と言って勘右衛にやりました。
「有難う。これで俺も久しぶりに親孝行できるよ」
と、嘘を言って、鍋汁を持って家に帰り、うまい汁を腹いっぱい食べました。

         今日ん話しゃ、こいまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2005.3.10

 

 

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