唐津の民話  

 

 

 
 『かんねばなし35』  
“胡椒と油”

 今日は、勘右衛(かんね)どんの、牛に悪戯ばさした話ば、しゅうだい。
 勘右衛の隣村の和多田に、甚六という大きな牡牛を飼っている者がおりました。
 甚六は この牡牛が自慢で、どこに行くにも牛を連れていました。
「勘右衛 こん牛ば見てくれ。こう立派な牛は 唐津のあたりばかりじゃなか、肥前の国中探してん おるまい」 と、自慢たらたら、勘右衛を軽蔑しました。しかし勘右衛も 鼻っ柱の強い方ですから
「甚六の奴、自慢話もほどほどにすればよかとに、ここらあたりで少しばかりいじめてやろう」
と、考えました。そして知らん顔をして
「ほんなこて立派な牡牛なァ。うらやましか限りたい。今度市が立ったら、お前のが一等賞に入るよ。前祝にお茶でも飲んで行ってくれ」
と、お茶を勧めました。

 そのうちに、家の裏に回って、胡椒(こしょう)をたくさん取ってきて、牡牛の鼻の先に塗り付けました。
 そしたら、今までおとなしくしていた牡牛は 急に暴れだし、鼻緒が切れるほど、大暴れに暴れました。
現在の“和多田”
 それで、座敷に上がっていた甚六は驚いて、はだしで牡牛の所に駆け寄りました。
「こりゃ、どうしたこつか?」
と、牡牛を静めようと、牡牛ののどをさすっても、少しもおとなしくなりません。
「勘右衛、どうしたらよかか、考えてくれんか」
と、勘右衛に頼みました。すると勘右衛は
「俺に任せてくれるか。俺は牡牛が暴れるとき、静める一番いい方法ば知っとる。ただし、これは 俺の専売特許だし、ただじゃ教えられんもんなァ」
と、取り静めの 出しおしみをしました。
「よか、よか、お前の言うとおり お礼はするけん。ともかく静めてくれ」
と、甚六は一も二もなく頼みました。

 そこで勘右衛は、また裏に回って、油を持ってきて、暴れている牡牛の鼻と口に、その油を塗りつけました。
 すると牡牛は、今まで気違いのように暴れていたのが嘘であったかのように、急におとなしくなりました。
「どうだ、俺のやり方は上等だろうが」
と、勘右衛は自慢しました。
 甚六は、牡牛を取り静めてもらった手前、それに反発することもできず、そのうえ、酒一升を勘右衛にやって、すごすごと和多田に帰って行きました。

         今日の話は、ここまで…。
           (富岡行昌 著 「かんねばなし」より)


2004.9.20

 

 

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