『かんねばなし34』
“茶屋の娘”
今日は、勘右衛(かんね)どんの、狐から騙されらした話ば、しゅうだい。
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松ノ木100万本の“虹ノ松原” |
勘右衛が用事で虹ノ松原を通っておりますと、目の前を綺麗な娘さんが通っているのに出会いました。
「こりゃ、よか娘んごたる」
と、近寄って確かめてみますと、その娘の着物の下には大きな尻尾があるのが見えました。
こりゃ、“おさん狐”が化けたのに違いなか と思って後をつけていきました。
そうしたら、娘は二軒茶屋に入って行きました。そこで勘右衛もすぐ後から茶屋に入り
「いま、娘が入って来たろう?」
と、尋ねますと
「そういう娘はおりまっせんばい」
と、店の者は返事をしましたが
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虹ノ松原の中ほどにある現在の“二軒茶屋”
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「いや、確かに入った。俺がこの目で確かめとる。よいか、その娘は“おさん狐”が化けたものだ」
と、言いながら、店の者が止めるのもきかず、店の奥へどんどん入っていきました。
勘右衛が店の奥に入ってみると、座敷に娘が座っておりました。
「この娘は、狐ん化けた奴ですばい。こら、おさん狐、ここの娘さんに化けて何をするつもりか。俺が叩き出すけん、覚悟しとけ!!」
と、怒鳴って、今にも娘さんを叩こうとしました。
その有様を見ていた店の旦那さんが、慌てて勘右衛を押さえ
「勘右衛、お前は何ちゅうことをするか。これはうちの娘じゃ。お前は狐に騙されとるぞ!!」
と、怒鳴り返しました。
そう言われて、勘右衛が目の玉をこすりこすりよく見てみますと、確かに娘さんには尻尾は付いておらず、狐の匂いもしませんでした。
「こりゃ、狐に化かされとりました。申し訳なかことばしてしまいました。許してくだされ」
と、平謝りに謝りました。
今日の話は、ここまで…。
(富岡行昌 著 「かんねばなし」より)
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