北朝鮮への経済制裁、もう少し冷静な対応がほしかった

 以前にも北朝鮮への経済制裁は効果がないと述べてきました。それは各国の足並みが揃うはずがないからです。
 北朝鮮の脅威や拉致問題等を考えれば、本当に何とかしなければという気持ちは十分理解できます。でも、日本だけが制裁しても解決はしない問題なのですから…。
 拉致問題では、制裁に踏み切らない政府に対して、拉致家族を中心に国民世論も政府の弱腰批判が高まってきていました。それでも政府は慎重な態度を崩しませんでした。そこまでは賢明だったと思います。
 そこに今回のミサイル発射、しかも7発。「それ制裁だ!!」という世論が一気に高まったのは当然でした。今がチャンスとばかり、すばやく経済制裁を発動した政府に対して、国民世論は歓迎意見が多かったようです。
 <アメリカも強気だし、今度こそは各国も制裁に踏み切ってくれる。> そう思った政府は、安保理で主導権を握るべく、いち早く制裁決議案を提案しました。もちろん安保理各国に拘束力のある決議案のつもりでした。
 ところが案の定、中国とロシアが反対しました。拒否権までちらつかせた中国は「北朝鮮を説得する」として時間稼ぎに出ましたが、ここで果たして中国は本気で説得したのでしょうか?あるいは何らかの密約があったかもしれません。中国にとっての北朝鮮は友好国だからです。
 その間にフランスなども消極論に変わり、韓国は日本案に不快感を示し、口先では強気のアメリカまでが、日本をなだめに廻ったようです。あくまで拘束力のある制裁決議にこだわるのは日本だけになりました。
 今回のミサイル発射は、北朝鮮に言わせれば「公海上での軍事演習であり、アメリカや大国がやるのはよくて、何で我々がやるのはいけないんだ?」という口実が成り立ちます。事実、日米合同演習に対する対抗措置であったという見方もありました。
 このミサイル発射は、中国やロシアはもちろん、アメリカや韓国も事前に知っていたふしがあります。各国とも一様に驚いては見せましたが、知らなかったのは日本だけだったかもしれません。

 北朝鮮説得に向かった中国は、説得が不調に終わったとして「制裁もやむなし!!」と憤慨して見せ、ロシアと図って独自の決議案を出してきました。しかしそれは拘束力も何にもない決議案でした。
 各国の意見が<制裁で追い込むより対話で>という方向に傾いていましたので、日本もこの案に譲歩せざるを得ませんでした。
 これでも強い決議ができたと評価する人もいますが、果たしてそうでしょうか。日本の完全な敗北ではないでしょうか。
   一度振り上げたこぶしを振り下ろすきっかけを失った日本は、高まる世論を背景に、更なる制裁に走ろうとしています。なんだか子供じみてはいませんか?
 安保理は、口でこそ強い懸念を示しても、制裁はしないと決めました。そこに日本だけが制裁を強めても効果は極めて限定的です。
 いっぽう北朝鮮は、次のミサイルを発射しないとは一言もいいませんでした。そこに日本だけが制裁することは、日本対北朝鮮の問題だけだということになります。
 北朝鮮が日本の経済制裁を不満としてテポドンで脅しても、それは他の国には関係ないこととなってしまうのです。
 アメリカだって、口では強いことを言っていますが、ミサイル発射に対する更なる制裁の発動はしていません。
 アメリカが今行っている制裁は、以前の偽ドル事件や麻薬製造に対する制裁ですから今回とは無関係です。
 前にも述べましたが、北朝鮮が日本を脅かすことは、今はアメリカの国益です。脅かされれば脅かされるほど日本はアメリカを頼らざるを得ませんから、アメリカに金を払うのです。
 今回のミサイル発射に強い懸念は示して見せたものの、内心ではほくそ笑んでいるのではないでしょうか。いやむしろアメリカが積極的に仕掛けたのではないかとさえ思えるのは、ゲスの勘繰りでしょうか?
 日本では一部の政府関係者から「敵基地攻撃論」なるものまで飛び出してきましたが、今の日本の自衛隊にはそんな攻撃能力はありませんし、アメリカは日本がそんな軍備を備えることを望んではいません。アメリカにとっての日本は、今のところは金づるだけでいいのです。
 ここに私は、いかにもゲスの勘繰り的なことを書いていますが、日本と違って世界のほとんどの国は、自国の国益にしたがってしか動きません。アメリカはもちろん、北朝鮮にしても、中国にしても、ロシアや韓国もそれぞれ国益が違うのです。そこには非常にシビアで、したたかな外交交渉が展開されます。
 人の良い日本人は、これらの国々には太刀打ちできません。アメリカべったりでは、好むと好まざるとにかかわらず紛争に巻き込まれます。
 日本の生きる道は、これらの国とは一線を画して、何の下心もない、独自の平和に徹した外交政策を進めて行くことではないでしょうか。まだまだ日本を、そして日本人を尊敬している国も多いのですから。
 今回のミサイル発射は、日本だけが大騒ぎをしているようにしか見えません。北朝鮮制裁で孤立した日本は、いずれ大きな代償を払わされるのではないでしょうか。もう少し冷静な対応ができなかったのか、残念です。

2006・07・21
 

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