『ユニセフからの手紙』
 

 新聞やテレビでほとんど報道されることがない『忘れられた緊急事態』。
世界のいくつもの国で、大勢の子どもたちが紛争や干ばつ、そして洪水などにより命をおびやかされています。
 武力紛争によって家を焼かれ、残虐行為に震えながら暗闇の中を逃げ続ける子どもたち。
水も食べ物もなく、飢えや病気に苦しみながら必死に生きようとしている子どもたち。
 混乱の中で、親や家族とはぐれてしまった子どもたち…。そのほとんどがアフリカを中心とした、世界で最も貧しい地域の子どもたちです。今ここに、薬があれば、水や食べ物があれば、助かる命がたくさんあります。

 国際社会が心を一つにすれば大きな変化を起こせる。
インド洋沿岸の津波被災者への支援を通して、多くの方々がこう実感されたのではないかと思います。
ユニセフの活動も、平素からのみなさまのご支援、あるいは緊急募金へのご協力によって大きく前進し、心配された感染症の流行をも未然に防ぐことが出来たのです。
 しかしその一方で津波後の被災地と非常によく似た緊急事態が、今この瞬間もアフリカを中心に30以上の国々で起こっていることは、ほとんど知られていません。
 木の枠にビニールシートをかぶせただけの粗末なテントが、 何百、何千と点在する難民・避難民キャンプ。
灼熱の中で、子どもたちは水を求めて半日以上も列に並び続けています。
診療所に担ぎ込まれた赤ちゃんの枯れ木のような体、膨れ上がったお腹。明らかに重度の栄養不良です。
アフリカの子どもたちは、何ヶ月、あるいはもう何年も、この苦しみに耐え続けています。

 紛争による人道危機に直面したスーダン・ダルフールでは避難民キャンプに人々があふれ、安全な水や薬などが大幅に不足し、乳幼児の死亡率が通常の10倍にも上昇しました。
衰弱のあまり物を飲み込むことさえできなくなってしまった1歳のメイスーンを助けるために、保健員の人たちは、毎日脱水症状を和らげるORS(経口補水塩)を与え、栄養補給を続けました。傍らで必死に祈り続けていた母親は言いました。
「紛争が始まり、危なくて畑に出られなくなりました。食べ物が底をつき、我が子がどんどんやせていくのに何もしてやれないのです。もしここにキャンプがなかったら、もしここで治療してもらえなかったら、この子の命はあきらめるしかなかったでしょう。」
 下痢による脱水症からメイスーンを救ったORSは、1袋7円弱。5,000円で、778袋のORSを子どもたちに届けることができます。
メイスーンは幸運でした。140万人もの子どもたちが難民・避難民となっているスーダンでは、その多くがキャンプにもたどり着けず、飢えや病気、時には暴力によって、誰にも知られることなく命を落としています。
こうした同じような悲劇が、コンゴ民主共和国で、エチオピアで、あるいはハイチやネパールで毎日起きているのです。

 干ばつに見舞われたジンバブエのトウモロコシ畑で、茶色く枯れた作物を前に立ち尽くす少年。両親をエイズで亡くした彼には、もう守ってくれる人は誰もいません。
 テレビカメラが回ることのない、世界で最も貧しい国々の、最も弱い立場にある子どもたち。
10,000円で、子どもの栄養状態を回復させる高タンパクビスケット5,451枚を届けることができます。また、30,000円で、治療器具や医薬品が入った緊急時の保険・衛生キット(3か月分)を1,188人分届けることができます。
 天災、紛争、感染症の流行…緊急事態の背景にあるものはさまざまですが、そこに置かれた子どもたちの苦境は同じです。
生死にかかわる救援はもとより、誘拐や人身売買からの保護、学校の再開、災害を体験した子どもや兵士にさせられた子どもたちへのトラウマ克服プログラムなど、ユニセフは世界のどこであろうと、子どもにふさわしい未来を築くために力を惜しまず人道支援を続けています。

 世界が心を一つにすれば、多くの子どもの命を救うことができます。緊急事態が起こっている国で、世界中で、1人でも多くの命を助けるため私のもてる力のすべてを尽くしてまいります。
どうかみなさまの引き続きのご支援を心からお願い申し上げます。

                              ユニセフ(国際連合児童基金)
                              事務局長  アン・M・ベネマン

 

夜、馬に乗った男たちがやってきた。
父さんが「逃げろ」と言った。
母さんと妹と私は必死に走った。
暗闇の中でずっと歩いた。朝まで歩き続けて、その次の朝はじめて水を飲んだ。
ニャラのキャンプに逃げるまでの3日間、何も食べなかった。
ここに来て、学校に行った。少し心が楽になった。
とても家が恋しい。でも、一番悲しいのは…村で別れた父さんのこと…。

                                 ファルドス(14歳の少女)
    “ファルドスの父親は村で殺されている”

 

2005・06・23  

  

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